「べっぴん」を広辞苑で引くと、
【別品】特別に良い品物。「別嬪」の意にも用いる。
【別嬪】とりわけ美しい女。美人。「─さん」
とあります。
普通、我々が使う「べっぴん」は「別嬪」の意味が、つまり美人を指すことが多いですよね。
だけど、この語源がまさか「ウナギ(鰻)」のことだったとは・・・。
こんな話が満載されているのが『ぷらり日本全国「語源遺産」の旅』(わぐりたかし著・中公新書ラクレ・定価860円(税別)です。

ぷらり


ある日、語源ハンターの「わぐりたかし」さんは、都立中央図書館所蔵の、『風俗画報』第72号で、「べっぴん」についての解説記事を見つけます。
場所は東海道五十三次の吉田宿(現・愛知県豊橋市)。当時、吉田宿にあった「織清(おりせい)」という割烹店が、江戸で評判だった鰻の蒲焼きを、自分の店の新メニューに取り入れようと考えたそうです。その売り出しの際、織清の主人が「店の前をいく通行人の目をくぎ付けにするような宣伝文句は無いだろうか」と友人に相談したところ、友人はしばし思案し、

頗別品(すこぶるべっぴん)

と漢字三文字をしたためたそうです。
つまり、この上ないほどとても旨い、極上で別格の品という意味を、わずか三文字でズバリと言い表した、「頗別品」というキャッチコピーがめでたく誕生したのです。
すると、作戦はズバリ的中。鰻の蒲焼きは大ヒットとなり、織清の名物となり、その噂と評判は、たちまち東西に知れ渡り、やがて名古屋あたりでは鰻に限定せず、そんじょそこいらの物とは訳が違う「別格の品」であるという意味で「べっぴん」が広く使われるようになったということです(上記『風俗画報』第72号の転載を引用)。
現在流布している「別嬪」という漢字表記は、意味が変化してからの当て字のようだと、わぐりさんは結んでいます。

語源ハンターわぐりさんは、この「織清」で「別品」の鰻を食べようと、旅に出ます。それらしき店にたどり着けないでいたところ、東海道吉田宿の本陣跡で営業している「丸よ」という店をついに発見します。なんとそこが「織清」の流をくむお店だったのです。まるでドラマのような展開ですが、本書『ぷらり日本全国「語源遺産」の旅』には、このような出会いが満載です。

他にも「(2)やぶ医者─語源の地で、ホンモノの「やぶ医者」とご対面!」では、「やぶ医者」とは、「医術のつたない医者(広辞苑)」では無く、名医の代名詞だった事実が明かされ、「(4)トロ─名付け親は、三井物産の係長、安達一雄さん!」では、トロの語源発祥が現在も営業している日本橋の「吉野鮨」の常連客、三井物産の係長である「安達一雄さん」であることがつきとめられます。
また、我々がよく耳にする「銀ブラ」とは、決して銀座をブラブラ歩くのでは無く、三田の慶應義塾から銀座までの道のりのことを言い、そのコースまでもが決まっていたそうです。さらにもう一つ意味が隠されていて、それは大正時代の文化人サロンでもあった「カフェパウリスタ」のブラジルコーヒーの「ブラ」であり、往時の文人や慶應義塾生がブラジルコーヒーをすすりながら文学談義に花を咲かせていたことにも由来するそうです。
ちなみに、「銀ブラ」の正規ルートは慶應義塾から芝公園、増上寺、芝大神宮を経由して、日陰町(新橋二丁目)、旧新橋停車場跡を巡り、銀座カフェパウリスタへたどり着き「鬼の如く黒く、恋の如く甘く、地獄の如く熱きコーヒー」を飲むのが、由緒正しき「銀ブラ」正規ルートだということが「(12)銀ブラ─元祖「銀ブラ」には、正しい道順があった!」に書かれていますが、
ここで語源ハンターわぐり氏がただ者ではないのが、「「銀ブラ」を部外者として取材しているだけでは」飽き足らず、なんと慶應義塾大学文学部(通信課程)に自らが入学してしまうことです。語源ハンター恐るべし・・・。
このほかにも、目から鱗の話が満載の『ぷらり日本全国「語源遺産」の旅』は是非オススメです。また、前著『地団駄は島根で踏め 行って・見て・触れる《語源の旅》』もオススメです。是非併せてご一読ください!

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「べっぴん」が鰻から美人のたとえに変化したり、名医の証である「やぶ医者」がその逆の意味で使われるようになったり、どうもこういった自由度は日本語独特の「文化」なのかもしれませんね。
「ヤバイ」が、「不都合である、危険である「─い・ことになる」(広辞苑)」という現在の意味から、「このスナック菓子チョ~ヤバイ(とっても美味しい!)」などと逆の意味に使われるのが常態化するのも、そう遠くない将来なのかもしれません。
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